投稿者 : sobashogun 投稿日時: 2024-08-02 17:36:51

 7月27日、日本大学生産工学部津田沼キャンパスにて、「第17回千葉県そば大学講座」が開講した。同講座はそば関連の知識やそば打ちの技法の普及啓蒙と地域振興策並びに生涯教育の一環として、農林水産省の後援を得て開かれている講座だ。
 開催に先立ち、同講座特別顧問で自民党千葉県参院議員の臼井正一氏と、一般社団法人全麺協理事長の中谷信一氏が挨拶。近年、本格的な10割や手打ちそば店が増加傾向にあることや、17回目を迎えた本講座で受講者総数が3,465名に上ったこと等が伝えられた。
 当日行われた講座は「戦前に手打ちそばは絶滅したのか?『そばうどん』バックナンバーからから探るそばの歴史」「そば麺探訪−賢者・行者・忍者−」、昼食休憩を挟み「熟練の華麗なるそば打ちの妙技その1『イベントや年末に沢山のそばを打つ』」「熟練の華麗なるそば打ちの妙技その2」の4講座。その後、学士・修士・博士の学位授与式、修了証授与式が行われた。

 第1講座は柴田書店の高松幸治氏による「戦前に手打ちそばは絶滅したのか?『そばうどん』バックナンバーからから探るそばの歴史」。高松氏は、歴史検証を行う上での注意点を説明した上で、「機械打ちがいつ普及したか」をテーマに行なった歴史検証について順を追って説明した。
「『江戸しぐさ』というものがあります。後に論破されてしまいましたが、江戸時代のマナーを復活させようというものです。例えば『傘かしげ』は、傘をすぼめた方が簡単だとなり、『こぶし腰浮かせ』は長椅子がないからこぶし1つ分ついて腰を浮かせて席を詰めるなんてしないだろ、と。『時泥棒』も当時は時計がないからありえない。結局は江戸時代を現代の人が想像して創作したことがバレたわけです。でも、色々いい訳をいったため、教科書にも載ってしまった。昔のことを検証する時、いかに本当ぽいことが書いてあっても、常識で考えればありえないとわかるものがあります。当たり前だと思っていることがそうではないこともあるかもしれない。ということを説明していきたいと思います」
 高松氏は検証する上での注意点として、次の8つが大切という。
1、伝聞・また聞きよりも本人の記述を優先。
2、回想よりも当時の記録を優先。
3、随筆よりも公文書や品書き等の記録文書を優先。
4、引用は出典の明らかなものを優先。
5、当時の時代背景で矛盾がないか考える。
6、現在の常識にとらわれない。
7、想像は資料探しのヒントや推理にとどめ、必要最低限に。
8、わからないことは急いで無理に結論づけようとしない。
 一般的にそばは、戦後しばらく機械式ばかりで、その後一茶庵の片倉康雄氏が手打ちそばの魅力を広げ、普及に努めたといわれている。しかし、機械打ちはいつ普及したのか。それについての通説は、関東大震災後の昭和始めに急速に広がったとなっているが、様々な疑問が出てくる。例えば製麺機導入にあたる資金や動力源。手打ち職人の行き場はどうなったのか。機械打ちの生産能力に見合う需要はあったのか等。果たしてこれらが関東大震災後に一気に進んだのか。
 そこで高松氏は過去の文献やポスターを元に検証し、1つの結論に至ったことを説明。それは、戦後食糧不足の中でもそばがつくりやすかったために大繁盛したが、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の指摘のもと衛生面を考慮し、手打ちから機械打ちが増え、そば打ち機械が躍進したこと。だが、高額で機械を購入できない人もいただろうとの考察から、手打ち店もそれなりに残っていたはず、という訳だ。
 最後に高松氏は「こういう疑惑の残る話がまだまだたくさんある。調べてみると面白い。皆さんには関心を持ち、そばの歴史研究に寄与して頂けることを切に願います」と締め括った。

 続いて第2講座は、信州大学名誉教授・農学博士 井上直人氏による「そば麺探訪−賢者・行者・忍者−」。登壇した井上氏は最初に「行者とは修験道という山岳宗教で、山に籠って悟りを得るための修行を行う人のことです。その修行にソバを使っていた。でもボランティア組織みたいなもので文書があまり残されていない。普通の歴史学なら文書を詰めていくができない。なので私は民俗学的な調査、いわゆる聞き取り調査をしてきた。それをお話ししたい」と説明。また、ここでいう賢者とは曼荼羅図に見られるような悟りを開いた涅槃を目指す修行僧のことで、行者に通ずるものだ。涅槃には3解脱(欲を断つ、怒りを断つ、無知からの脱却)で到達するといわれ、食欲を絶つ修行「五穀断ち」では稲や麦等といったイネ科の主要穀物とは異なる、タデ科のソバを食していたという。
 井上氏は「行者を調べる上で子孫の方に取材をしました。どっから来てどう修行したのか聞いたら、埼玉県からきて信州に住むようになったと。子孫の家には写真も文献も残っていました。1つの宗教にこだわらず、様々なことを勉強し取り入れていた。ソバを食べて修行する人を『木喰行者』といいますが、民族学的聞き取り調査だからアプローチできるというのがメリットです。通常、人は穀物だけを食べていると絶対に体を壊します。ただソバは生食でも食べられてビタミンもあるため体を壊さないで済む。それが修行で重宝された1番の理由」と語る。
 つまりソバ食のルーツは修行食で、遡れば南のシルクロードでも使われていたという。修験道が目指すのは「幸福(招福除災)実現」。そのため、ソバは行者らによって飢饉対策等で各地に広がり、忍者の携帯食「兵糧丸」のルーツにまで繋がっていく。兵糧丸はソバを原料とし、栄養素も豊富で酒を練り込むことから腐らず携帯食に適していた。
「明治政府が修験道を排斥した影響だと思いますが、これを学会で発表すると行者や忍者なんぞ怪しいって毛嫌いされます。でも修験道は全く怪しいものではない。排斥しようとしても結果的に残っている。潰せないのです。ソバは胚芽と胚軸は蛋白質と脂質がたくさん入っており、胚乳はデンプン質。完全栄養食です。忍者というのは修験道の技術と京都からの学問や最新技術を取り入れたものなので、修験道と忍者は深い繋がりがある。文書は遥か昔まで遡れるので嫌いなわけではありませんが、やはり現地に行って足で稼ぐのが大切です」と井上氏。以上で時間となり講座は終了となったが、聴講者は興味津々に耳を傾けていた。

 昼食休憩を挟み、第3講座「熟練の華麗なるそば打ちの妙技その1『イベントや年末に沢山のそばを打つ』」が行われた。講師は全麺協6段位の仲山徹氏。
 使用したソバ粉は常陸秋ソバで二八そば3kgを打った。半分の1.5kgは通常加水の水回しで、もう半分は一気加水で行われた。通常水回しで、第1加水の際に75〜80%を入れることで第2加水の際に生地への浸透が早いという。その後、練りを行い、15分ほどで終了。次に一気加水での水回しに移った。仲山氏の計らいでストップウォッチで3分にセットし水回しのタイムアタック。
「(水を入れたら)とにかく内回しして外回しで分散していきます。そしたらどんどん水分が分散されていきますのでとにかく回す。ある程度分散できたら、1回天地返してまた分散。通常水回しと一気加水とは最後の出来具合がちょっと違います。完全に水が浸透していきません。でもそれは練りでカバーしていきます。だいぶ混ざってきたらまとめていきます。一気加水だと早くできますので、年末やイベント時に挑戦していただけると面白いかと思います」と、実演しながらポイントを説明する仲山氏。見事3分で水回しが終了し、会場から拍手が湧き起こった。その後、先に練っておいた半分の生地と合わせたら、しっかりと腰を入れて練っていく。次に地延し、丸出し、角出し等を経て生地が完成。
 延しの最中、聴講者の視線を釘付けにしたのが、延しのポイント説明の部分。仲山氏は「二八そばというのは、コシがあるため端から10〜15cm戻っちゃう。すると端が厚くなるでしっかり延します。結構延したつもりでも縮んで厚くなっちゃうので、2mmくらいの厚さのあるものを物差し代わりにして、確かめながらやるといいと思います。あと手前に戻すのも大切です。前に出したら手前に戻す。できるだけ手前に戻して生地に負担がかからないようにする。負担がかかると破れてしまいます。あと大切なのが、麺台と麺棒が並行になっているかどうか。綿棒が曲がっているとどんどん曲がっていっちゃうので、少しずつ延していく」と説明し、そば切りの工程へ。終始、聴講者の興味を惹き付ける講義だった。

 第4講座は、全麺協6段位・横田節子氏の「熟練の華麗なるそば打ちの妙技その2」。横田氏が打つそばは、北海道の牡丹ソバを使用した二八。粘りがあるのが特徴。横田氏もポイントを説明しながらそば打ちを披露。
「私はソバ粉を半分くらい入れてつなぎを入れます。真ん中くらいに入れると混ざりがよいのではないかなぁと思っています。粉を入れたらよく混ぜるようにしています。よく混ぜないと、つなぎとソバ粉が混ざらない時があります。一度審査員をさせてもらった時に、緊張のあまり混ぜずに水回しをしたらそばにならなかったという方がいました。なので最初の混ぜる工程が大事だと感じています。それが終わったら、70%くらい水を入れて、私は中まで手を入れて散らすように一気に混ぜます。散らしましたら手についた生地を取ります。そうしないとついた生地が体温で混ざりにくくなっていくので、まめに取っていきます」
「女性は力がないので捏ねる際は両手で全体重をかける」「地延しは均一な厚さになるよう気を付ける」等、女性ならではのポイントも丁寧に説明しつつ、延しから切りの工程を行い、講義は終了した。
 質疑応答の時間もあり、学位授与式、修了証授与は急ぎ足だったが、8名が学士、14名が修士、1名が博士(10年受講)を授与された。来年は、蕎遊庵の根本忠明氏が出汁の話について講演予定とのこと。興味がある方は要チェックだ。








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